動物実験/実験動物に関する法制度詳細解説

 

 1973年に議員立法で制定され、主として人が占有する動物の愛護と管理について規定している。


 背景には当時の日本の捕獲犬の過酷な扱いや実験動物の惨状等に対する欧米諸国からの批判、エリザベス女王の来日や天皇の訪英があったと言われる(ただし日本国内にも戦後間もない頃から当時の動物愛護団体や国会議員を中心に、動物保護法制定を目指す動きが何度かあり、特に1965年には保護法制定を目的に当時の主要な愛護団体を中心として「全日本動物愛護団体協議会」が結成され、活発な国会活動等を行っていた)。


 当時の名称は「動物の保護及び管理に関する法律」で全13条から成り、虐待・遺棄の禁止(3万円以下の罰金)、適正な飼養保管、動物による人の生命、身体、財産への侵害防止、自治体による犬ねこの引取り、動物を科学上の利用に供する場合の措置、動物保護審議会の設置等が規定されていた。

 

 その後1999年に26年ぶりに議員立法で改正されて名称も今の名称となった(背景には神戸の少年連続殺人事件と動物虐待の関連等を問題視した自民党が青少年健全育成の観点から法改正を検討したこと、またその動きに対応し、当時の主要な愛護団体を中心に結成した「動物の法律を考える連絡会」が活発な活動を行ったこと等がある)。動物取扱業の届出制、虐待に対する罰則強化(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)、動物愛護担当職員・動物愛護推進員の設置等が改正・追加された(全30条)が、市民団体が求めた中で動物実験の規制については一切盛り込まれなかった。また実験動物の繁殖・販売業者は動物取扱業の届出対象からも除外された。

 このとき附則で定められた5年後の見直しに基づいて2005年に再び議員立法で改正された。改正・追加内容は、基本指針及び動物愛護管理推進計画の策定、動物取扱業の規制強化、特定(危険)動物の飼養許可制、虐待への罰則強化、動物を科学上の利用に供する場合の措置に代替法の活用と使用数の削減への配慮を追加等(全50条)で、動物実験の実質的な規制についてはまたも盛り込まれなかった。2006年6月1日から施行になっている。

 

 本法所管は当初総理府であったが、2001年の中央省庁再編により、環境省へ所管が移された。
 

 また本法に基づく動物の飼養及び保管に関する基準では、人の飼育下にある動物を4種類(家庭動物、展示動物、実験動物、産業動物)に区分し、それぞれについて基準を定めている。

 

 全体的な内容としては家庭動物や展示動物に関する事項が中心となっており、環境省によれば実験動物や畜産動物については本法では愛護の理念をうたっているに過ぎず、具体的な行政指導や規制については他省庁及び他法律に委ねるとしている。この点において欧米諸国の動物保護法(若しくは動物福祉法)では全ての動物種を総合的に保護し、動物実験の規制についても一律で同じ法律の中に規定している点が大きく異なる。しかし本法の本来の趣旨からすれば、欧米諸国の法律と同様なやり方が採れないという特別な根拠は無く、この辺りは法律論というよりむしろ省庁間の力関係(更に言えば関連業界との力関係)によるところが大きいと思われる(実際、本法は議員立法で成立した法律であり、本法制定に関する公の記録のどこにも環境省の主張の根拠になるような事項は書かれていない)。

 

 2006年6月1日に施行された改正法では、動物実験に関する条文は以下のようになっている。

 

(動物を科学上の利用に供する場合の方法及び事後措置)
 第41条
 動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供する場合には、科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用すること、できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること等により動物を適切に利用することに配慮するものとする。
 2 動物を科学上の利用に供する場合には、その利用の必要な限度において、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。
 3 動物が科学上の利用に供された後において回復の見込みのない状態に陥つている場合には、その科学上の利用に供した者は、直ちに、できる限り苦痛を与えない方法によつてその動物を処分しなければならない。
 4 環境大臣は、関係行政機関の長と協議して、第2項の方法及び前項の措置に関しよるべき基準を定めることができる。

 

 第1項は動物実験における国際的な原則として認知されている3R(Replacement,Reduction,Refinement=代替、削減、苦痛軽減)のうち、ReplacementとReductionを新たに追加したもの。ただし第2項(Refinement)と比べて、「配慮するものとする」という弱い表現になっている。

 

 第2項及び第3項は動物福祉の中で最も重要となる苦痛の軽減(Refinement)をうたったもの。
 

 第4項は第2項及び第3項の「苦痛の軽減」に関して国が基準を設けるための規定。この項(及び改正法第7条4項)に基づき「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」が定められている。

 

 欧米諸国の動物保護法(若しくは動物福祉法)では、実験施設の許認可制、実験計画の許認可制、実験者の資格制、行政による査察等の実質的な動物実験の規制が盛り込まれている国がほとんどであるが、日本の実験動物保護に関する唯一の法律である本法は、上記のようにわずかに理念と努力規定をうたっているにとどまっている。

 

 

 動物愛護管理法第7条4項(動物の適正な飼養及び保管)及び第41条4項(動物実験と殺処分における苦痛の軽減)に基づいて定められている基準。実験動物を飼育する全ての施設が対象となる。


 1980年制定時の名称は「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」。

 

 1999年の動物愛護管理法改正後から見直しの動きはあったが、結局2005年6月の法改正を踏まえて2005年10月から4回の小委員会とパブリックコメントを経て2006年3月に中央環境審議会の答申が出され、26年ぶりの改正となった(2006年4月28日告示)。

 

 改正点は3Rへの配慮や委員会の設置、教育訓練、記録管理に関する事項等が新たに記述されたこと、施設の構造要件(スペース等)が展示動物の基準とほぼ同様になったこと、名称が変わった(「等」が「並びに苦痛の軽減」に置き換えられた)こと等であるが、苦痛の軽減に関する事項はほとんど追加されなかった。

法律や政省令と違い、罰則や強制力を持った規制を設けることはできない。

 

 

動物愛護管理法第40条第2項に基づく指針。全4項目から成り、実質的な内容は下記の1項目のみである。

 

第3 処分動物の処分方法
  処分動物の処分方法は、化学的又は物理的方法により、できる限り処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によること。

 

日本獣医師会発行・内閣総理大臣官房管理室監修の解説書(絶版)が出ており、指針本文に書かれていない処分方法の詳細はこちらに記されている。この理由を解説書では以下のように述べている。


「社会の変化に応じて動物観は変わるものであり、処分方法は獣医学の進展と共に進歩していくものであるから、この指針の中に具体的な処分方法を記述しておくと、将来、新しい状況に敏速に対応できない場合が生じるおそれがあるので、具体的な処分方法は「解説」として記しておくことがよいと思われる。このことは、もし十分な理由がある場合は、この指針の解説に記述されていない別の(新しい)処分方法を適用すべきことを意味している。」

 

 殺処分において動物福祉上最も重要な点は麻酔等により意識を完全に喪失状態にした後に実施することであるが、使用薬剤や使用機械、対象動物により条件や適性が異なり、社会的評価は一律ではない(特に行政による愛がん動物の処分方法として解説されている炭酸ガス処分については動物保護団体からの批判が多い)。解説書ではそれぞれの方法の長所や短所の紹介にとどまっている。

 

 ドイツやスウェーデンでは法律で麻酔または意識喪失後の殺処分が義務付けられており、日本でも最低限の原則については法律に明記する必要があると思われる。

 

 その他、解説書に書かれているような事項のうち、「処分決定者」や「処分実施者の資格」、「処分方法の一般原則」等については指針本文に明記するのが妥当ではないか。

 

 

 2005年の動物愛護管理法改正を受け、1987年文部省通知「大学等における動物実験について」をベースに、科学技術・学術審議会 ライフサイエンス委員会 動物実験指針検討作業部会において、2005年8月から7回の作業部会とパブリックコメントを経て内容がまとめられ、2006年6月1日に公布された。大学や高等専門学校その他、文科省所管で動物実験を実施する機関を対象とする。

 1987年通知からの改正点は主に、3R(代替法、数の削減、苦痛の軽減)の表現強化、動物実験委員会の設置表現強化と役割、委員構成への言及、教育訓練、自己点検・評価と外部機関による検証、情報公開等である。

 全体としては各項目ともに具体的記述に乏しく、詳細については本指針を踏まえた各機関の指針(機関内規程)に委ねるとされている。

 法律や政省令と違い、罰則や実質的に強制力を持った規制を設けることはできない。

 

 

 文科省の「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」制定を受け、文科省の指針案をベースに、2006年3月の厚生科学審議会科学技術部会(1回)とパブリックコメントを経て内容がまとめられ(文科省で審議が始まった当初には対象範囲が明確でなかったが、対象範囲が文科省所管の機関に限定されることになったことで、厚労省も急遽、後追いで作らざるを得ないことになったとのこと)、6月1日に公布された。製薬企業その他、厚労省所管で動物実験を実施する機関を対象とする。

 全体としてはほぼ文科省の基本指針と同じ内容で、各項目ともに具体的記述に乏しく、詳細については本指針を踏まえた各機関の指針(機関内規程)に委ねるとされている。

 法律や政省令と違い、罰則や実質的に強制力を持った規制を設けることはできない。

 

(参考)「厚生労働省における動物実験等の実施に関する基本指針(素案)」の策定経緯及び概要

 

 

 農水省所管で動物実験を実施する機関を対象とする。全体としてはほぼ文科省の基本指針と同じ内容で、各項目ともに具体的記述に乏しく、詳細については本指針を踏まえた各機関の指針(機関内規程)に委ねるとされている。

 法律や政省令と違い、罰則や実質的に強制力を持った規制を設けることはできない。

 

 

 各機関が機関内規程を策定する際に参考となるガイドラインとして、日本学術会議が文科省と厚労省の依頼を受けて作成した。