動物愛護管理のあり方検討小委員会・浦野徹委員の意見書に対する意見

第24回動物愛護管理のあり方検討小委員会へ提出された浦野徹委員の意見書について、
 動物実験/実験動物関係者の主張に共通する多くの問題点が含まれていますので、指摘させていただきます。(太字部分が浦野氏意見)なお浦野氏は国立大学法人動物実験施設協議会会長という立場(当時)でもあります。

 

1.我が国における自主管理の仕組み構築のための経緯について

「以上のような実験動物の福祉向上と動物実験の適正化の現在の枠組みを構築したのは、5 年前の2006 年当時、自民党、公明党、民主党などの議員の方々、環境省や文部科学省等の省庁関係者、日本学術会議等の科学者、実験動物と動物実験に係わる専門家、及び一部の動物愛護団体の方々等が検討して合意した結果であり」(P2)

 

法的規制を逃れるために自主規制の枠組みを提案した動物実験/実験動物関係者はともかくとして、当時の政党や省庁が自主規制の枠組みを「検討して合意した」などという話は聞いたことがありません。

 例えば、2005/4/27発表の当時の民主党のニュースでは、
 「谷事務局長は「3Rの実効性担保のための動物実験施設の届出制や生態系への侵害防止といった課題ついては自民党の合意を得られず今回の改正では断念したが、これらの検討を行うことを念頭に、5年後の見直しを約束させた」と語った。」
と記載されています。

 浦野委員の主張にはかなりの語弊があります。

 

2.実験動物施設に対する外部からのチェックシステムについて

「各機関で行われている動物実験に対する外部の目線によるチェックについては、外部評価あるいは第三者評価システムにより、文部科学省関係では国立大学法人動物実験施設協議会と公私立大学実験動物施設協議会の合同のプログラム、厚生労働省関係ではヒューマンサイエンス振興財団、農林水産省関係では日本実験動物協会によりそれぞれ毎に行なわれています。」(P2)

 

 外部評価の内容は各施設の「自己点検・評価」の確認が主体で、極めて形式的なものです。
(例:http://www.nirs.go.jp/research/group/animal/committee.html)

大学で2009年、製薬企業で2008年に開始以来、少なくとも500以上あると考えられる(環境省、文科省や学会の調査より推定)動物実験施設の中で、評価を受けた機関は大学、製薬企業で今までにそれぞれたった27機関、14施設にすぎません(第21回動物愛護管理のあり方検討小委員会鍵山直子氏説明資料より)。

そもそも「第三者」というのは通常全く利害関係のない人や組織を指すのではないでしょうか?現状の評価主体は各々の業界を代表する団体なので、利害関係がないどころか、「持ちつ持たれつ」の関係です。このような誤魔化しの制度は法的な管理を逃れる言い訳にはなりません。

 

「これらの外部評価の結果は、大学関係では文部科学省の基本指針に従い、適宜、それぞれの機関毎にインターネットの利用、年報などの方法で公開しています。」(P3)

 

動物実験施設を有する大学関係では、年報はどうかわかりませんが、少なくともホームページには自己点検や外部評価の結果を掲載していないところが数多く見受けられます。文科省が2011年に行った文科省関係機関へのアンケート調査では実施率はたったの33%でした。

また、製薬企業に関しても、文科省の指針と同様、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」(製薬企業も対象機関:厚労省に確認済み)にて、
 「8  動物実験等に関する情報公開
  実施機関の長は、機関内規程及び7の規定に基づく点検及び評価の結果等について、適切な方法により公開すること」
と定められているにも関わらず、少なくともホームページでは自己点検や外部評価の結果を掲載しているところが全く見当たりません。

 電話により、動物実験を実施している6社の製薬企業へ問合せ、調査をしたところ、CSRのページに動物福祉に配慮するといった記述はあるものの、6社とも自己点検や外部評価の結果については情報公開をしていませんでした。

これらの事実は、動物実験の情報公開が蔑ろにされていることだけではなく、そもそも動物実験指針が遵守されていないこと、及びその状態について監督官庁が把握も改善指導もしていないことを示唆しています。これは浦野委員や実験関係者の主張する、「動物実験」については監督官庁(文科省、厚労省、農水省等)がしっかり把握・監督しているという主張が全く誤った認識であることを示すものだと考えます。

 

3.自主管理制度を日本全体に周知・徹底することについて

「我が国における実験動物施設の所在等は所管省庁及び日本実験動物学会等の関連学会や協会によって、その全てが把握されています。」(P3)

 

実験動物学会の学会誌(実験動物ニュースVol. 59 No. 2/April 2010)には、
 「今回の調査は調査範囲を拡大し,特に大学,短期大学,高等専門学校のすべてを対象とした。研究機関や企業のすべてを対象とすることは機関名簿が不備であるため困難であるが,今後,調査対象をさらに拡大する努力を続けたい。」(P17)と記載されています。

これは浦野氏が実験動物施設の所在等を全て把握していると主張している日本実験動物学会が、知り得る限りの1593機関を対象にしたアンケート調査に関する記述です。

その記述に「研究機関や企業のすべてを対象とすることは機関名簿が不備であるため困難」とはっきり書いてありますので、浦野委員の主張はデタラメです。

しかもこのアンケート調査の回答率は67.4%でしかありません(よって残りについては実態把握できない)。所在の問題だけに絞っても、「機関の連絡先」がわかることと「実験動物施設の所在」がわかることとは別の話です(機関によっては複数の実験施設を持っていたり、代表連絡先と実験施設の住所が異なるからです)。

 実験動物「協会」は生産業者等の業界団体なので、研究機関について実験動物学会が把握していない分を全て把握しているなどということはあり得ないことです。

また所管省庁(文科、厚労、農水等)にしても、法的根拠がなければ「実験動物施設の所在」まで把握することはできません。環境省や文科省のアンケート調査でもさすがに施設の所在までは含まれていませんし、例えば厚労省の製薬会社所管の根拠は薬事法ですが、「実験動物施設の所在」まで申請することは定められていません。実際に、薬事法を所管する医薬食品局及び、動物実験指針の通知を行った厚生科学課に確認したところ、一般企業について「実験動物施設の所在」や「実験動物施設を有する企業がどこか」については把握してないとのことでした。

 可能性がある機関の連絡先がわかればそこを通して所在はわかると言うかもしれませんが、それでは何かあった際の対応が遅れますし、日常的に管理・監督・指導することができません。施設の情報は公衆衛生や安全の観点から、地元住民や自治体にとっても必要な情報です。

そもそも「動物実験受託企業」などはどこの省庁も所管していません。

 要するに浦野氏をはじめとする動物実験/実験動物の関係者は、実験動物施設については実態把握されているから何の問題もありません、法律で届出や登録にする必要はありません、と言いたいのでしょうが、実際には「全てが把握」されているというには程遠いのが現実だと考えます。

 今回の事故で安全神話が崩れた原発のように、科学者/研究者の自己評価・自己規制に任せるのは危険です。「施設の所在」すら、国も関連団体も把握してない現状を改善するために、まずは施設の届出・登録が急務です。

 

4.実験動物施設が適正であるかの審査の内容について

「実験動物を飼育及び実験するための施設が適正であるか否かを審査する内容及び審査員は実験動物学の知識と技術と経験を有する専門家により行われる事が必須あり、愛玩動物等とは全く異なります。(P4)

 実験動物施設の登録制等の仕組みが新たに導入された場合、対象とする実験動物施設の審査のために立入りした地方自治体の職員によって、動物実験の研究目的と方法を十分に考慮した上で環境因子が適正であるかを判断する事となりますが、地方自治体の職員においては実験動物学の知識と技術と経験を有するとは思われませんので、絶対的に不可能と言っても過言ではありません。(P5)」

 

この部分の意見は、あくまで適正な実験データを得るための飼育環境について、自治体の職員はわからない、ということを言っているにすぎません。しかし自治体の職員が立入りするのは、あくまで動物の愛護や一般的な管理条件(ex.公衆衛生の観点)を満たしているかという観点ですので、これは巧みに問題をすり替えているだけです。また暗に実験の目的は一般的な動物の愛護や管理よりも優先するのだ、という研究者の驕りが透けて見えます。このように実験の目的が何よりも優先されるというような関係者の独善的な姿勢こそが、行政や一般人の監視の目が必要であることの大きな理由の1つです。

 

5.東日本大震災における実験動物領域の被害状況について

「以上のような対応により、東日本大震災のごとくの極めて大きな震災に対して、国民生活に影響を及ぼすような事例は一件もありませんでした。また、東日本大震災における各機関の状況について関係省庁への連絡も行われており、その結果、環境省や文部科学省等の関係省庁は、実験動物領域においては全く問題が生じていなかった事を確認・認識しています。」(P5-6)

 

 実験動物の逸走についてはどうかわかりませんが、停電等の影響で多くの実験動物が死亡していると推測されます。

 例えば東北大学の動物実験施設では
「自動給水装置の不具合からマウス約80 匹ほどの死亡が確認された。」とされています。
http://plaza.umin.ac.jp/~steroid/summer/program_6.pdf

「実験動物領域においては全く問題が生じていなかった」とのことですが、実験動物の大量死亡は「問題」ではないのでしょうか?

また、このような実験動物の死亡については関係省庁へ報告されているのでしょうか?

 実験動物の問題は、安全や公衆衛生の問題だけではなく、動物の愛護、福祉の観点も当然含まれます(動物愛護管理法)。

 実験動物の大量死を何の問題もないと考える関係者の意識には疑問を感じますし、またこれらが報告されていないとすれば、動物実験施設が実験動物の命や保護を軽んじていること、また監督省庁が現状の制度下では、実験動物の愛護、福祉については現実問題としては監督できていないということの証拠ではないでしょうか?

 

6.動物愛護管理法において実験動物と動物実験については現状の自主管理を今後も推進すべきとの見解について

「動物実験の適正な実施は格段に進展していると判断されます。この判断は、我が国で実験動物を用いた科学研究を推進している研究者、すなわち、日本医学会を初めとして日本学術会議、日本再生医療学会、日本生理学会、日本神経科学会、日本免疫学会及び国立大学医学部長会議が支持を表明しています。」(P6)

 

「これらの多くの組織の考えは、第一に我が国の研究者集団のほとんどが現在の自主管理体制を評価し、その推進に極めて協力的である事、第二に、実験動物の専門家である日本実験動物学会等の科学者集団が自主管理体制を周知徹底していく母体となって強力に推進している構造が、既に我が国に構築され実行に移されている事を意味しています。」(P6)

動物実験の利害関係の中心にいる団体が自画自賛しているからといって、なぜそれが「動物実験の適正な実施」の証明になるのでしょうか?このような科学者の驕りや傲慢が信用できないことが、施設の登録制や市民による監視制度が必要であることの大きな理由の1つだと考えます。